好きだけじゃ足りない



「ねぇ、伊織…、一回でいいから円香さんとちゃんと向き合ってみてよ。」


私何言ってるんだろう…。
敵に塩を送る…だっけ?そんな事したって私にはなんの利益もないのに。



「一回でもさ…向き合って、それでも…もし、もしもだよ?
私を好きでいてくれるなら、その時はちゃんと伊織に返事するから。」

「……無駄だと思うけど。円香と向き合ったって何も変わらねぇよ。」


この馬鹿にしたような笑いも健在なんですか、アンタは。

ってか、私が勇気を持って言った事を"無駄"の一言で片付けるとか何様よ…。



「無駄って…なんでよ。」

「あ?決まってんだろ。

俺が好きなのはメグだから。」


うわー…コイツ、サラっと…物凄い爽やかに恥ずかしい事言いやがった…。

多分、いや確実に今の私は顔が赤い。

―………暗くてよかった。



「だから無駄。」

「――…私、既婚者には興味ないから。」


伊織以外は…なんて言えるはずなかったけどね。
本来の私なら、不倫とか浮気とか許せないはずなのに…恋は盲目とはよく言ったものだね。

さっきから私には都合がよろし過ぎる言葉ばかりで、隠していた…と言うより忘れようともがいてた気持ちが再発するなんて。



「…お前さ、頭難いな。」

「はぁ?何よそれ…」

「不倫って何?浮気ってなんだよ。
好きな奴と一緒にいたいのはそんなに駄目な事か?

自分に素直に生きるのがいけない事なんて誰が決めた?」


きっと、今の伊織は間違った事は言っていない。

不倫や浮気は間違った事だけど、好きな人と一緒にいたいとか…
自分に素直に生きるのが駄目な事とか…

そんなの定義にはないのかもしれない。



「一緒にいたいからいる。

愛してるから傍にいたい。

それは間違いか?」


駄目だ…。
正論すぎて、私には敵わないや。



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