好きだけじゃ足りない
「運命だ、運命。」
「――…そうだと良いね。」
多分、それはない。
私は運命なんて信じない。
世の中、あるのは必然だけ。
運命だろうが偶然だろうが…結局はすべてが必然だから。
「じゃあ、行くか。」
「はい?どこに?」
引いていたサイドブレーキを下ろして、無駄に良い顔に笑顔を貼り付けている伊織に口許が引き攣ってしまう。
――…嫌な予感しかしないっ!
「俺の家。ちなみに円香が知らない家。」
「…………はぁ!?」
家?しかも円香さんが知らない家ってなんですか。
そもそもなんでそうなる?
「ちょ…ちょっと!なんで行かなきゃいけないの!?」
「決まってんだろ。俺はメグが好きでメグは俺が好き。相思相愛だろ?
だったら家に行ったって問題なんかねぇよ。」
いや、大いにありますから。
「あ、メグは車のが好き?」
「なにが。」
「なにって……ナニが。」
最悪……最悪だ、コイツ!
さっきまでのしんみりしたムードは?真剣なムードはどこ…?
「メグが車が良いなら俺はそれでも良いけど?」
「っ…ふざけんな!この変態!
ちょ……どこ触ってんの!?」
「胸。」
堂々と言わないでよ…。
何なの、コイツ。いや、マジで…。
私はとりあえず、無遠慮に私の胸に置かれた伊織の右手をペシンと叩き落としてこれ以上ないくらいのため息を吐き出してやった。
「――…メグ?」
「……………なによ。」
「愛してる。」
……有り得ない…。
だからキライなの。アンタは。
今までふざけてたのにいきなりそんなにとろけそうな笑顔向けるなんて…。
だから…だから私はアンタから離れられないんだ。
三年分の積もりに積もる文句はまだ言い足りないけど…
今はアンタのとろけそうな笑顔に免じて我慢してあげる。