好きだけじゃ足りない
「メグ、もっと自信持てよ。」
至近距離にある伊織の顔に、瞳に、香り…伊織のすべてに眩暈を起こしそうだ…。
「お前は俺が唯一惚れた女なんだよ。
俺にはお前しかいねーんだから、自信持てよ。」
何なんだろう…。
どうしてコイツは私の喜ぶ言葉ばっかりをくれるんだろう。
エントランスのど真ん中で見つめ合う男と女なんて、スキャンダルの一つでしかないのに。
それでも…ずっと、永遠にこうしていたいとすら思う。
「…わかったか?」
「わ……わかんないっ!ってか離してよ。見られたらまずいんだから。」
それでも素直になれない。
そんな私を見越してしまう何枚も上手なコイツ。
意地を張って、突っぱねても、コイツは…伊織はスルリと当たり前のように私の中に入り込んで当たり前のように私の中に居座るんだから。
「素直になれよなー…まぁそれがメグだもんな。」
「余計なお世話よ…。」
「……ほら。
お手をどうぞ?お姫様…」
スーツを華麗に着こなし、当たり前のように気障な台詞を言ってしまう伊織は私のたった一人の王子様なのかもしれない。
「姫抱きが良いならそうするか?」
「は?嫌だし!!」
「却下。俺がメグに触りたいから。」
言葉と同時にふわりと浮き上がる体に驚いて目の前にあった伊織の首に両腕を回してしがみついた。
「おお…積極的…。」
「ちょっ…下ろして!」
「無理無理。
抱き心地サイコー……お前、着痩せするからな。」
にんまりと妖しく笑うコイツ。
膝の裏と腰辺りに回る腕は気のせいなんかじゃなくて妖しく動いてる…。
「っ……変態!!」
「メグ限定でな。」
もはや清々しい程に開き直った伊織の前髪を引っ張って、小さい小さい反抗をしてみた。
―――…もちろん、無駄でした。