好きだけじゃ足りない
お姫様抱っこのままエントランスを清々しい笑顔(に見えるだけ)で歩く伊織。
人が通らなくてよかった…。
心底思いながら、降ろしてくれる気配すらないコイツに諦め、小さくため息を吐いた。
「メグ、ボタン押して。」
「…………あのさ、私を降ろせば万事解決じゃん。」
「だから却下。ほら、早く。」
我が儘だ…。
唯我独尊だ…。
俺様すぎる…っ!
言いたい事は山ほどあるけど、逆らったところで流されるだろうから諦めてエレベーターのボタンを押した。
もはやため息しか出ない。
伊織がエレベーターの箱の中でも私を降ろす事はなくて。
ただ抱き上げられてるだけならまだ我慢する事もできるけど…腰辺りにある掌が妖しい動きをしてるのが許せない。
「ちょっと…伊織。」
「あ?」
「あ?じゃない。手を動かすな。って言うか降ろせ。」
「ほんとお前……口悪いな。」
呆れたように苦笑いの伊織にようやく降ろしてもらった私はエレベーターの箱の中にようやく靴の底を付けた。
「昔からですから。」
「ベッドの中ではあんなに素直だったのになぁ…。」
昔を思い出してまたにんまりと妖しく笑う伊織の足を思いっ切り踏んずけてやった。
恥ずかしげもなく恥ずかしい事を言うのは本当にやめてほしい。
――…伊織は私たちがイケナイ関係になるってわかってる…?
あ……自分で考えて落ち込んでしまう私はなんて愚かしいんだろう。