好きだけじゃ足りない
涙を見せたくなくて伊織の胸に顔を埋めれば、伊織は優しく私を抱きしめてくれる。
三年振りに感じる甘い時間に目を閉じて、伊織に甘えるように体を寄せれば、伊織はふと思いついたように腰に手を回した。
「そう言や……お前、三年前から太った?」
「…………………は?」
なに?
今、コイツはなんて?
甘い時間に、しかも三年振りに通じた時間に聞く事…?
「いや、……ほら…腰周りがちょっと…」
「っ………サイテー!!!」
ガツンっ―とちょっと嫌な音がしたけど、自業自得だっ!
私は目の前にいるサイテー男の急所をけりあげた。
――…多少は加減したけど。
「…っ!!おま……っ」
「自業自得!アンタほんとにサイテー!」
あまりの痛さにうずくまる伊織を冷たく見下ろして、ふんっと鼻を鳴らした。
ほんと…サイテー。女の子に言う台詞じゃないでしょ!
「……っ、おま……使えなくなったらどうすんだ!」
「アンタは少しくらい不能になるのが調度良い!このっ…
万年発情男っ!!」
「はぁ!?俺が発情すんのはお前だけだっつーの!
わかったか!?」
……な…何を言う?
伊織の言葉を理解するのにたっぷり5秒。理解した後は自分でわかるくらいに顔が真っ赤になっていた。
「それにな……俺は、体つきが女になったって言いたかっただけだっつーの!」
「………っ、馬鹿じゃん!」
「ほんと…お前変わんねーな。」
相当痛かったはずなのに、怒りもしないで…優しく笑ってくれる伊織。
ただの変態なんて言ったのを謝りたい。
「いや…抱き心地はよさそう…
………試させて?」
――…前言撤回。
伊織はただのエロくて我が儘な王子様だ。
それでも王子様を捨てられないのは、伊織が私にとってたった一人の王子様だから。