好きだけじゃ足りない
出会いたくない再会
伊織と三年越しの再会をしたのは昨日。
結局、あのあと私が伊織に敵うはずもなく…………存分に…それはそれはアイツが喜ぶくらい試された。
「……最悪…っ」
人で溢れ返る街中を気だるく歩きながら万年発情男に悪態をつきたいくらいだ。
右肩には財布なんかが入ったバッグ、左手には資料が詰まった無意味に重い鞄を抱え、ひたすら歩く。
向かうは伊織が勤める会社。もちろん仕事で。
昨日の今日で会いたくない…わけではないけど、多少気まずい感はあるものの仕事は仕事。
重い鞄を持ち直して、目の前の交差点を右折すればすぐそこにある大きなビルに小さくため息を吐き出した。
「…行きたくない……。」
「どこに行きたくないの?」
「っ!?」
独り言に真後ろから声が返ってきて危うく鞄を落としそうになりながら振り返れば、私がもっとも苦手な人物。
―――…如月…彬…。
「昨日振りだね。メグちゃん?」
馴れ馴れしいから苦手なわけじゃない。
ただ、なんとなく…この男は危険だと本能が警鐘を鳴らす。
「昨日は……可愛がられた…?」
「っ……なに、がでしょうか。如月専務。」
「いつまで続くか楽しみだね、メグちゃん?」
やばい…、この男はわかってるんだ。
私と伊織に何があったか…。
その上で挑発するような言葉を私に投げ掛けてくるんだ。
「イケナイ関係はばれたら終わりだよねぇ…ねぇ?」
「………おっしゃる事の意味がわかりません。
急ぐので失礼します。」
これ以上、この男といては駄目だ。
優しそうな顔立ちからは想像ができないくらいにこの男は危険。
私は小さく頭を下げて、小走りで如月彬から逃げ出した。