好きだけじゃ足りない



小走りでビルに入り、受付嬢の綺麗なお姉さんに担当者を呼び出してもらう。


伊織と関係を持つのを再会してすぐはあれほど拒んだ。
なのに、今は離れる事なんてできないくらいにまた伊織に依存し始める自分。

そんな自分が滑稽すぎて、受付のすぐ傍にある椅子に腰を降ろしてため息を吐き出した。


もし…もしも、如月彬がダレカに私と伊織の事を話したらすべてそこで終わる。

それはそれで仕方がないのかもしれないけれど…

もう少しだけ時間がほしい。
やっと再び会えた、やっと再び気持ちが通じた伊織と離れるのが何より怖かった。



「……メグ?」

「っ、いお……お疲れ様です…英部長。」

「………お疲れ様、高波さん」


会社では他人、人に見られる場所で親しげにするわけにはいかない。

それこそ、すべてそこで終わる。



「待たせて悪い。場所移そうか。」

「……はい。」


私が立ち上がれば、さりげなく左手にあった無意味に重い鞄を取りさっさと歩き出す。

伊織は相変わらず気配り上手なんだ…。
何も言わなくても、それが当たり前だと手に何かを持っていれば取るように持ってくれる。



「ほら、行くよ?高波さん。」

「あ、すみません。」


動かしていた足を止めて、私が追いつくのを待ってくれる。

小さな心遣いが本当にすごく嬉しかった。



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