好きだけじゃ足りない
「メグ?」
口を開いたまま、ぼんやりと見えた人影を見ている私を眉を寄せる伊織。
――…どうして今なんだろう。
会いたくない再会だった。
「おい、」
「あら……メグちゃん?」
透き通るような声に私は肩を跳ねさせ、無意識に半歩後ずさっていた。
会いたくなかった。
「メグちゃん…でしょ?」
「……あ……円香さん…」
どうして今…?
三年振りに見る円香さんはあの日、伊織の隣できらびやかなドレスを着ていた時と何も変わりもない綺麗なままだった。
「久しぶりね!メグちゃんいつ日本に?」
「………三年前に…」
「そう…それで、なぜ此処へ?」
私は円香さんの言葉と視線に堪えられずに目を逸らした。
きっと、言葉に棘があるのは勘違いなんかじゃない。
「柏木、お前ここで何してる?会議あるだろ?」
「あぁ…そうだったわ。
じゃあ、またね?メグちゃん。
伊織、今日は帰ってきなさいよ?実家に行くんだから。」
ズキンと胸が締め付けられるように痛かった。
この人は気づいているのか…。
「……会社で名前呼ぶなって言わなかったか?
それに、今日は無理。」
伊織がどんな表情でそう言っているかはわからなかった。
ただ、私が見えたのは円香さんの左手薬指に光るシルバーの指輪…結婚指輪だけ。