好きだけじゃ足りない
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「失礼します。藤和印刷所の高波ですが―…」
「あ、お待ちしてました!課長、高波さん来ましたよ!
すみません、少しお待ちいただけますか?」
「全然!ゆっくりで構いませんよ。」
私は印刷所に就職した。
周りからはもっといいとこでも就職できたんじゃないかって言われるけど。
日蔭の私は日蔭にいるのがお似合いなんだよ。
「すいません……お茶どうぞ?」
「お構いなく。」
指定された来客用の皮張りソファーに座り、目の前にいる男性社員を見た。
私とあまり変わらないくらいかな?若く見えるけど…。
「……何か付いてます?」
「え?…あ、すみません!」
若く見える、目鼻立ちが整った顔をジッと見てしまっていた。
――…どこかで見たような…。
「申し訳ありません、お待たせ…………専務!?」
「は?……専務?」
経理課の課長である、仲町さんが私を見て、私の目の前にいる男を見た。
瞬間、直立不動になって"専務"と叫んでいる。
「あははー…バレたか。」
「…………"専務"…?」
「そうそう。如月彬です。よろしくね、高波萌さん。」
軽く、爽やかに笑う男…如月彬は悪びれる様子なんて微塵もない。
――…"専務"がなんでこんな場所に?普通は椅子で踏ん反り返ってるんじゃ…。
「………失礼致しました。如月専務。」
「やめてよ。俺にそんなかたっくるしいのはナシ。
兄さんの友人なんだしね。」
今、なんて言った…?
兄さん?……如月?
パズルが綺麗に組み立てられた中に一人の人物が浮かんだ。
「………拓海さんの?」
「大正解ー。」
砕けた話し方、何も汚い事なんて知りませんって笑顔に私は眉を寄せていた。
――…本当にこれが"専務"?