好きだけじゃ足りない




「……おーい、トリップしてるとこ悪いけど。」

「してないから!」

「はいはい、ほら…早く行くぞ。」


にんまりとした、さっきの爽やかに見えるだけの笑顔じゃなくて。
にんまり怪しい笑顔の伊織は私の声を軽く受け流して、さっさと会議室を出ようとしている。



「どこに行くのよ。」

「あ?決まってんだろ。

社長室だよ社長室。」


あまりにもあっさりと言う伊織に思わず「そう」と言ってしまいそうになるも、よく考えれば何故私が社長室に行かなきゃいけない?

だいたい、社長室に行く用事も、社長室に行く権利もない。

しかも社長知らないし。



「なんで私がっ…」

「俺が連れて行きたいから。お前だってまだ仕事終わってないだろうが。」


確かに、仕事は終わっていない。
印刷物の配色やレイアウト仕上げの話しをしにきたはずなのに、何もやってなかった…。



「社長室行って話せば良いだろ。」

「は?社長室でどう話すの!
だいたい…社長なんて私会った事すらないから!」


訳のわからない事を平然と言うコイツの考えは何年経ってもわかるはずもなく。

伊織に引っ張られるままに会議室を出る事になってしまった。


私がコイツに勝てる日っていつかは来るのかな?



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