好きだけじゃ足りない


伊織の後ろを黙って歩く私は物凄く偉いと思う。

ただ単にさっきまで行かないとごねていたら…


「此処でキスされたい?」


と言う…悪魔の一言に大人しくなっただけと言う言い方もあるんだけど。


しかも、さっきから伊織が伊織じゃない。
いや、伊織は伊織なんだけど…伊織じゃないような…。



「部長、おはようございます!」

「おはよう、今日もよろしくね。」


なんて会話は当たり前だし…。



「英部長、今日も素敵ね。」

「いつも優しいし…大人の男って余裕がまた…」


なんて会話まで聞こえる。
声を大にして言えるなら言いたい。

この男は優しくもないし、大人の男でもない。
むしろ人を虐めて楽しむような変態です。


今日わかった事は、コイツが会社ではお見事!と拍手絶賛したくなるような外面を被っている事。

"素敵・優しい・大人の男・仕事ができて部下思い"

どれもこれも私が知らないコイツばかりで三年がどれだけ長い時間なのかを思い出された。



「……おーい、…メグ?」

「…え、なに?」

「お前ボーッとしすぎだろ。社長室行くんだからシャキッとしろよ。」


いや、アンタが強制的に連れてきたんでしょうが!

会議室を出て、エレベーターに乗って、気づけばビルのてっぺん付近らしい。
大きい窓から街並が見渡せるけど、すべてが玩具のように見えてしまう。


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