好きだけじゃ足りない
「すご……」
「夜はもっとすげーぞ。」
大きい窓に張り付くようにして見下ろした先にはミニカーみたいに小さい車と、行き交う豆粒みたいな人。
伊織の言う通り、夜になれば明かりが灯った街並を見渡せる絶景スポットになるかもしれない。
「なんなら今度見にくるか?」
「……無理な事言わないで。」
期待してしまう。
そんな未来の約束はしないで。
伊織から離れられなくなっちゃうんだから。
「無理じゃねぇよ。
絶対見せてやる。
ついでに、此処で抱いてやろうか?」
「…っ、………変態!」
自信満々に言った伊織に少しときめいて、すぐに思い直した。
――…やっぱりコイツはただの変態だ!
「良いじゃねーかよ……なんか…オフィスラブ?とか危険な響きがまた…」
「勝手に想像すんな!」
「想像じゃなくて、妄想な。」
そっちの方が危険だからっ…!
思わず後ずさっていた私に伊織は妖しく笑いながら、後ずさった分だけ近寄ってくる。
「……な、なんで近寄ってくるわけ!?」
「逃げるから。」
「いや、誰だって逃げるでしょ!ってか…離れろ!」
「嫌だね。メグは素直じゃねぇからなー。
お仕置き、してやるよ。」
あまりにも妖しく艶の含んだ声に逆らう事もできずに口許をひくつかせながら、伊織から視線を逸らせているしかなかった。