好きだけじゃ足りない


この状況なら救世主が現れるのがセオリーなはずなのに…。



「ひ、人来るから離れろ!」

「残念、この階は社長室しかないから滅多に人はこないんです。」


にんまりじゃなくて、にっこり。
恐らく外面用の笑顔で言われて余計に何も言えなくなってしまう。



「興味ねぇ?……オフィスラブとか。」

「なっ、ない!」

「そりゃ残念。」


今度はにっこりじゃなくて、にんまり。
お互いの息がかかるくらい至近距離で囁くように言った伊織。

キスされる、と瞼をギュッと閉じれば暖かい感触は唇ではなくて、首筋に感じた。



「はい、終わり。」

「っ、ちょ…」

「あ?もしかして期待した?オフィスラブ。」


からかうような声に、イラッとした私は怒りを鎮める…なんてするはずもなく、それでもにっこりと営業スマイルを伊織に見せてやった。



「………メグ?」

「…ふふふふ…………伊織、」

「…な、なんでしょうか。」


心持ち、怯えた伊織にまたとびっきりの営業スマイルをプレゼント。



「……この……変態ドS!」


にっこりと営業スマイルを浮かべたまま、本日初めて…昨日から換算すれば二度目の急所への蹴りを営業スマイルと共に伊織にプレゼントしてみた。



――…ざまぁみろ!




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