好きだけじゃ足りない
今、目の前にいるのは確かに見たことがある人。
「な、なんで拓海さんが此処にいるの…?」
「メグも…いつ日本に?」
「私は……三年前に…」
さっきも同じ事を聞かれたなぁ、なんて思いながら苦笑いを浮かべれば拓海さんは小さく笑って私と伊織に歩み寄ってきた。
「久しぶりだな。元気だった?」
「あ…はい、拓海さんは?」
「変わらずだよ。此処を継いでからは忙しいが…」
三年は長い。
それでも拓海さんは変わらずにに私を覚えていて、笑ってくれる。
それが嬉しいようなくすぐったいような…不思議な気分だった。
「ん?……継いだ?此処を?」
「あぁ、この会社は祖父がやっていた会社だから。」
「祖父……え!?あのクレイジーなおじいちゃん!?」
私が目を見開いて叫べば、拓海さんも伊織も苦笑い。
いや、だってびっくりした…あのおじいちゃんが会社を経営しているのは知ってたけど、こんな有名な会社だなんて…。
「エスポワールが…?」
「エスポワール?メグはそっちで呼ぶんだな。」
伊織の声に私は首を傾げた。
エスポワールが社名じゃなかったの?
「エスポワールが名前じゃないの?」
「違う違う。」
「PIECE and Espoir。」
伊織の声に被せるように言った拓海さんの声にさらに首を傾げる事になってしまう。
「英語と……フランス語?」
「そうそう。さすが帰国子女。って言うかさすが俺の女!」
当たり前のように言う伊織にギクリとした。
二人だけじゃないのに…
それに、円香さんを知ってる拓海さんがいるのに…。