好きだけじゃ足りない
「兄さんとかいっちゃんとかから聞いて会ってみたかったんだよね、君の事。」
男…如月専務は笑ってるはずなのに、私には笑ってるようには見えなかった。
―――…とんだ食わせ者かも。
この男は危険だ…、本能がそう予感した。
「いっちゃんが君をベタ褒めなのもわかるわー。」
「……いっちゃん?」
「英伊織、って言えばわかる?」
やっぱり笑ってる如月専務は口許を歪めて、私を見ていた。
英、伊織…?
どうして?彼が何かを言ったんだろうか…?
「いっちゃん、今此処にいるからね。よく会うんだよ最近。」
息が止まるかと思った。
彼が、日本にいる…?
いつ帰ってきた…?
知ったところで今の私にはもうなんら関係はないのだけれど。
「――…これから楽しみだね。高波萌さん?」
怖い、と思った。
この男、如月彬が心底怖いと思ってしまった。
如月彬の兄である拓海はこんな人間ではなかったような気がする。
――…この男……屈折しすぎてるわ。
近付きたくない、と思うが…今日から私はこの会社の担当になってしまっている。
二度と来ないなんて絶対に無理。
とんだ茶番だ。
日蔭にいたいのに、
そうはさせてくれない日常。