好きだけじゃ足りない
惚れた弱みか…、どんなに偉そうにしていてもかっこよく見えてしまう。
「メグはなぜ此処に?」
「あ…私も仕事…、藤和印刷の担当だから。」
「ほぅ……じゃあこれを作ったのはメグか。」
ぺラリとだされた紙は確かに私が担当した仕事。
小さく頷けば、感心したように拓海さんは数回頷いて口許を緩めている。
「さすが…だな。グラフィックデザイナー。藤和印刷にいるのは勿体ない。」
そう言う拓海さんは完全に経営者の目をしていて、無意識に背筋を伸ばした。
「んじゃヘッドハンティングでもしてみるか?」
「メグが良いなら…な。」
伊織の言葉に拓海さんは面白そうに返すけど。
面白くないのは他でもない私だ。
本人を無視して勝手に話しを進める二人にありったけの力で社長室の豪華なデスクを叩いた。
「ふざけんな…勝手に話し進めるとかありえませんけど?」
営業スマイル、それでもきっと目は有り得ないくらい据わっていたと思う。
二人とも黙ったし。
「ヘッドハンティングだかなんだか知りませんけど、私は藤和印刷をやめる気なんてありません。
所長は私の恩人ですから。
それとこれ、出来上がったサンプルです。目を通してご返答ください。
では、失礼いたします!」
ほとんど一息で言いきった私に口を挟む余地がなかったのか、二人はぽかんと口を開けたまま私を見ている。
私はそれ以上何も言わずに二人を見ずに、社長室を出た。