好きだけじゃ足りない
専務に腕を力付くで引かれて、駐車場に来た時、私は初めて腕を振り払おうとした。
「専務っ…腕痛い…」
「あ、ごめんねー。
はい、乗って?」
白いワンボックスのベンツ。
助手席のドアを開いて押し込められそうになりながら、それでも抵抗した。
傍から見たら、誘拐されそうになっている画にも見えたかもしれない。
「メグちゃん…そんなに拒否らなくても良いじゃん。」
「此処でも話しはできます!」
「ふーん……聞かれるかもよ?
聞かれたらどうなるかなぁ…いっちゃん。」
脅しにも似た言葉に私はそれ以上何も言えなかった。
なんとなく、専務が言いたい事がわかってしまったから。
「ばれたらいっちゃん、此処にはいられないね。あ、円香さんにもばれるか。
そしたら……わかるよね?」
専務は必要以上に頭が良いと思う。
そんな人に私が口論で勝てるはずがない。ましてや、イケナイ関係を知られているから尚更に。
「乗るよね?」
「っ……はい…。」
「素直にそう言えば悪いようにはしないから。」
笑ってるのに笑ってない。
目をみても、何を考えているか全くわからない。
抵抗なんて意味を成さないとわかった今、私はただおとなしくこの男に着いていくしかなかった。