好きだけじゃ足りない
「どこに…行くんです?」
「ん?誰にも邪魔されないところ。」
ハンドルを切りながら、軽やかに話す専務を私は見なかった。
見たって何も変わらない。降ろせと喚いたって降ろしてなんかもらえない。
今は、堪えるしかない。
「ねぇねぇ、普通のホテルとラブホテル、それか俺のマンション。どこが良いー?」
「どこも嫌です!」
「そう?じゃあ……普通のホテルにしよっか。」
寒気すらする笑みを浮かべたこの男はさも当たり前だと言うように進路を変える。
何が目的かまったくわからない状況はただ恐怖を煽るだけ。
「逃げようなんて、考えないほうがいいよ。
いっちゃんの事、好きなんでしょ?だったら守らなきゃね。」
悪魔の囁きのような言葉に私は唇を噛み締めた。
私と伊織の関係を知った相手があまりにも悪かった。
会社でも権限を持ち合わせたこの男。いくら、拓海さんが社長でも庇えない事は目に見えてる。
私が、堪えるしかないんだ。
「一つ聞いて良い?」
「………なんですか。」
「何でいっちゃん?メグちゃん位可愛かったら別の男でもいるんじゃない?」
そんな事は私が聞きたい。
どうして伊織じゃなきゃ駄目なのかなんて……、きっと理屈じゃないんだ。
結婚してるとか、してないとか。
そんなの関係ないのかもしれない。
ただ……
「私には伊織しかいない。」
それが答えなのかもしれない。