好きだけじゃ足りない
「ならさ…その概念。
ぶち壊してあげるよ。」
そう宣言してからはこの男は口を開かなかった。
次に言葉を聞いたのは、誰しもが知る高級ホテルの前に着いてから。
「車、よろしくねー。
メグちゃん、着いてきて。」
ホテルの従業員に車のキーを渡して、さっさとホテルのロビーに入っていく。
ここなら逃げられたのかもしれない。でも、今は逃げられてもこれから先はきっと逃げられない。
私に残された選択肢はすでにたった一つしかなかった。
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「此処、見晴らし良いでしょ。
俺のお気に入りなんだよねー。」
入った部屋は最上階の所謂、スウィートルームと言うやつ。
部屋の奥にはいくつも扉があって、今いる部屋のテーブルにはウエルカムフルーツが陣取っている。
普通なら喜べる場所でも、今はただ恐怖を煽るだけでしかない。
「座れば?」
「――…っお話をしたらすぐに帰りますから…」
「はは…メグちゃんって律儀って言われない?」
メーカーから注いだコーヒーを手に笑う専務。私はそんな専務をただ睨みつけていた。
「いっちゃんとの事、黙っててあげようか?」
「…え?」
「だから…メグちゃんが俺の言う事聞いてくれるなら誰にも言わないって約束するよ?」
これは、悪魔の囁きか…それとも天使の囁きか…。