好きだけじゃ足りない


「一つ、言う事聞いてくれたら黙っててあげる。

取引としては最高の条件だと思うけど、どう?」

「……専務の言う事って…?」


震える声を搾り出せばただ情けない声しかでなかった。

そんな私を構う事なく、専務は笑顔を崩さずにまた私の腕を力付くで引っ張った。



「君が…俺の玩具になる。

それが取引の条件だよ。」


玩具、と言う言葉を最初は理解できなかった。
でも…最後まで理解できない程私は子供ではない。



「条件を呑まないなら、


君といっちゃんの関係を会社中にばらまく。


どうする?…メグちゃん?」


こんなの……こんなの取引なんかじゃない。
私には断るなんて選択肢を残されてはいないじゃないか…。

どちらを選んでも伊織を傷付ける事になる…。

それなら、私が取る道は一つしかないんだから。



「……わかりました。」

「物分かりが良い子は好きだよ。」


これしかない。
伊織とこれから先、少しでも一緒にいられるなら…


身体なんていくらでも差し出してやる。


愛がないセックスなんて数にもカウントされないんだから。




「でも………貴方とキスはしない。それだけは譲らない。」


キスだけは、アンタには絶対にあげない。
あげるのは…この世でたった一人、伊織にだけ。

――…許してね、伊織…




この選択が正しかったかなんてわからない。
それでも、今の私には後悔はなかった。




玩具になると契約を交わした時、バックの中の携帯が振動していたが、私は知らないフリをした。






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