好きだけじゃ足りない
逃げ道
「選択肢は広がりそう?」
馬鹿みたいに広いベッドの布団に埋もれたまま、専務は口許を緩ませたまま私に言葉を投げ掛けた。
私は同じベッドにいるのも嫌なのに"玩具になる"と言う契約に縛られてそこから動けない。
「世の中、いっちゃんだけじゃないでしょ?」
「………私は…っ」
「"それでも伊織が良い"って言いたい?」
射るように私を見る目から逃れたくて、専務に背中を向けて口を閉じた。
「いつまでも続かない事くらいわかるだろ?
あ、それより…俺に抱かれたあんたをいっちゃんが許すか、だよね。」
私は専務の言葉にビクリと肩を揺らした。
いつまでも続かないのは私がよくわかってる。
でも、それ以上に…専務との契約は専務と私が話さない限りは伊織には気付かれないはず。
「まさか…」
「ん?俺、いっちゃんにも言わないなんて言った?」
騙された、ただそれだけが思考を占拠した。
騙されたとは言わないのかもしれない。
専務の言う通り、誰にも言わないとは言っても伊織にこの契約を言わないとは一言も言っていなかった。
「騙してはいないでしょ?俺、いっちゃんに言わないなんて言ってないしね。」
契約は天使なんかじゃなかったんだ。
正真正銘、悪魔だった。
「っ何がしたいの!?」
「ん?簡単だろ。いっちゃんと別れれば万事解決、でしょ?」
この時の私は、ただ浅はかだったとしか言えない。
伊織との関係を終わらせるのが怖くて、この悪魔に魂を丸ごと売ってしまったんだ。