好きだけじゃ足りない
「でも別れたくないから俺とセックスしたんだよねー。」
「……サイテー…」
「どう思おうが勝手だけど、ばらされたくないなら…言う事聞いた方がお利口だよ?」
これ以上、この男の近くにいたくなかった。
自分の浅はかさを思い知らされる。
助けを求めたくても、伊織には言えない、絶対に。
「……にしても…メグちゃん、いっちゃんに相当愛されてんね。」
「な…にがよ…」
「背中。キスマーク付いてる。」
何も纏わない背中を指先でなぞられ、嫌なのに身体が勝手に反応してしまう。
シーツを手繰り寄せて、専務から離れ…とりあえず睨んだ。
意味はないってわかっていても、それしか私にはできなかった。
「そんな警戒しなくても…、一回セックスしたら何回したって一緒だろ。」
「……がう…全然違う!」
ただ、ショックだった。
一度したら何度でもしていいって概念がショックで、専務を睨みつけたままベッドからはい出る。
「アンタは…アンタはそうかもしれないけどっ…私は違う!」
「なにが?なにが違うの?」
「っ……伊織以外とのセックスなんて…そんなのセックスじゃない。好きでもない奴とシタって何も感じない!」
ただの虚勢にしか聞こえないのかもしれない。
それでも、言わずにはいられなかった。誰彼構わずに抱いたり抱かれたり、そんなの意味なんてこれっぽっちもないんだ。
「……何も知らないおめでたい子だね、メグちゃんは。」
「…っ…何て言われようが…私はアンタに何回抱かれようがっ、意味なんてないんだから!」
気付いたら涙が頬を滑り落ちていた。それを拭うなんてしないで、散らばった服をかき集めてベッドルームを出た。
ベッドルームを出る間際、専務が何かを言っていたけど何を言ったのかまでは聞き取る事はできなかった。