好きだけじゃ足りない
駅前はただ騒がしい。
いつもと同じはずなのに耳障りなほどに騒がしく感じた。
駅前にある噴水。と言っても夏の時期しか噴水の水は出ないから噴水と言えるかはわからないけれど。
噴水の縁に腰を掛けて、小さくため息を吐いた。
電話口でもわかるくらい伊織の声は低く怒りが滲んでいた。
今まで何をしていたか、聞かれるのは目に見えていてそれをどう切り抜けようかそれしか考えられない。
「お姉さん、待ちぼうけ?」
言い訳らしい言い訳なんて思いつかない。
また小さくため息を吐いた時、いかにもナンパですって若い男が胡散臭い笑顔で目の前に立っている。
「もしかしてドタキャンされた?俺もなんだけどさ。ドタキャンされた同士ご飯でもどう?」
「……間に合ってますから。」
マシンガンの如くペラペラと喋る男に眉を寄せて携帯電話を見る。
伊織から電話が来てもうすぐ30分が経つ。
「お姉さん可愛いね。ね、ご飯一緒に行かない?」
「いきません。」
「え〜、良いじゃん。」
しつこい、その一言に尽きる男に不快感をあらわにしてもこの男は胡散臭い笑顔のまま図々しく隣に座る。
「お腹空いてない?じゃあカラオケとかは?」
「お腹空いてないしカラオケも好きじゃありません。
しつこいですよ…貴方。」
にっこりと営業スマイルは忘れずに男を見れば胡散臭い笑顔は崩れて、私を睨みながら口許を歪ませている。
「お姉さん…俺が下手に出てる内に頷いた方が良いよ?」
「下手?ナンパなやつが下手なんて有り得ないから。
それにね、私はあんたとは比べられない位の良い男を待ってるの。
三下は黙って消えな。」
悪いけど、今私はすこぶる機嫌が悪いんだから。
言い訳だって思い付かないし、何より浅はかな自分に機嫌は最悪。