好きだけじゃ足りない


あんたなんかお呼びじゃない、と言えば消えるか。
いや、多分逆上して殴り掛かられそうな予感がする。



「あんた…気強いな、気に入ったよ!」

「………は?」

「俺、お姉さんみたいなタイプ大好きだから。」


消えるとか逆上どころか胡散臭い笑顔じゃなくて、純粋な笑顔を振り撒かれてどう答えて良いかわからない。



「お姉さんを待ちぼうけさせるような奴やめてさ…俺と付き合わない?」


にこにこと人当たり良さそうな笑顔を向けて来る男にため息を吐いて、場所を変えようと立ち上がる。



「どこ行くの?」

「あんたに関係ない。着いてこないでよ。

それより…離して。」


右腕を捕まれ、逃げるに逃げられない状況に余計にイライラする。

腕を振りほどこうと暴れれば捕まれていない腕にまで圧迫感を感じて眉を寄せて左側をみた。



「い…おり…?」

「てめぇ……俺の女に触んな」


今まで見た事がないほどの威圧感がある伊織に背筋が冷たくなった。

目の前にいるナンパ男に怒ってるはずなのに、まるで今まで伊織には言えない事をしていた私に怒っているような錯覚すら覚えてしまう。



「消えろ。今すぐな。」


あれだけしつこかった男も何も言わずに逃げるようにいなくなった。
それだけ今の伊織にはいつものヘラリとした雰囲気なんてないんだ。



「メグ。」

「っ…なに、」

「今までどこにいた?」


男に向けていた冷たい眼差しが今度は私に向いている。
全てを見透かされたような錯覚に足元から体が冷えていくような感じがした。



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