好きだけじゃ足りない
人の波に逆らわず、伊織の隣を歩きながら駅の駐車場へと歩く。
「夕方だからどこもやってねぇよなー…」
「じゃあ諦めてコンビニ」
「いや、融通聞くとこあるからそこでいいだろ。こっからなら歩いて行けるし。」
我が道を行く、かなりマイペースなコイツは私の言う事なんて聞いちゃいない。
スタスタと勝手に歩く伊織にため息を吐きながらちゃんと着いていく辺り、私はコイツに勝てない証拠だ。
「ちょっと伊織!どこ行くの?」
「行けばわかるから。」
ただ前を歩いてた伊織は私の右手を握って、なぜか早歩き。
歩幅が元から違うせいで小走りになってしまう私の手を握っているコイツを睨みながら、またため息を吐いた。
――…今日だけで何回ため息吐いたかわからないわ…。
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駅前から歩いて(私は小走り)約10分。少し奥ばった場所に建つ店に懐かしさを感じてしまう。
「何回か来ただろ?」
そうだ、世界中転々としていた時も何度も日本には戻ってきていた。
その時に、伊織に連れてきてもらったのがこのお店。
「懐かしい―…」
「だろ?ほら、行くぞ。」
昔の…一番幸せだった時の記憶を当たり前に引き出してくれるこのお店は私にはうれしくもあり、また悲しくもあった。