好きだけじゃ足りない


「悩み事かい?」


安心感のある笑顔のマスターに私は口を閉じてしまう。

気付けば隣にいた伊織はどこかに行っていない。



「伊織ならトイレ。」

「あ…全然気付かなかった。」

「メグちゃんボーッとしてたからね。
それで、何かあった?」


マスターの笑顔には不思議な気持ちになってしまう。
今、抱えた悩みを洗いざらいに吐き出して楽になりたい、そう思わせるような笑顔。

それでも、私にはそれをする資格はないんだ。



「無理には聞かないよ。
メグちゃんが話したくなったら何時でも此処にくるといいよ。」

「……ありがとう、マスター…。」


暖かいミントティーを啜りながら少しだけ泣きたくなった。

マスターは私に逃げ道を用意してくれたんだ。
私が押し潰される前に吐き出せる場所を与えてくれた。

今は、それだけで充分。


トイレから戻ってきた伊織は眉を寄せながらミントティーを飲む私に首を傾げていたけど…



「なんでもないよ。」


ただ、それだけを言ってカップに残るミントティーを啜った。





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