好きだけじゃ足りない
繋がらない糸
隣に人がいる。それに慣れる事がいつまでもできない。
肌寒さにフルリと体を震わせ、思い瞼を持ち上げる。
「―…っ、びっくりした…」
「いい加減慣れろよ。」
瞼を持ち上げた先にはおかしそうに笑ってる伊織。
鈍い回転をしている脳をたたき起こして周りを見れば来た記憶がないのに、寝室のベッドに伊織に抱かれたまま寝ていたらしい。
「体、平気か?」
「…ん、」
こんな会話もいつもの事なのに慣れない。
抱かれて朝を迎えれば伊織はいつもこうして抱きしめてくれたまま私を労ってくれる。
「俺、腰痛いわ。」
「ふふ……おじさんだね。」
「あ?おじさん…ねぇ。おじさんでもまだイケるけど?」
私の言葉が気に入らなかったのか何なのか、ニヤリと妖しく笑いながら未だ素肌を晒したままの私の腰を撫でるように触る掌。
「っ…ちょ、っと!」
「おじさんじゃねぇの証明しないとなぁ…」
変なスイッチがオンになっている伊織の腕から逃げるように体を捻らせても簡単に組み敷かれていつの間にか私が見上げる体勢になっている。
「仕事…っ」
「残念、今日土曜だから休みなんですよねぇ。」
――…忘れてた…。
今日は土曜だから私も伊織も会社は休み。
逃げる口実がなくなってしまい、小さくため息を吐いた唇を伊織の唇で塞がれてしまった。