好きだけじゃ足りない
リビングのソファーで並んでコーヒーを飲んで居ても会話らしい会話なんて一つもない。
ただ、さっきから伊織が携帯電話パカパカと開いたり閉じたりをしているだけ。
「――…何か用事あるんじゃない?」
「……いや…」
「大切な用事なんでしょ?」
自分では気付いてないんだろうね。
伊織は気になる事やこの後に大切な約束なんかがあると携帯をパカパカする癖がある。
それに、目を逸らしてそっぽ向くのも嘘ついてる時の癖。
「何時に約束してるの?」
「……別にたいした事じゃねぇから良いんだよ。」
嘘ついた後は必ず私の頭を撫でて子供扱いする。
好きだから、余計な事でさえ気付いてしまう。
気づきたくないような些細な事でさえ気付いてしまう。
「メグ、」
「帰る。」
「は?何でだよ!」
白いマグカップをテーブルに置いてソファーから立ち上がった。
同じように立ち上がる伊織の声を無視して寝室に向かうと当たり前のように伊織はついて来る。
「メグ、帰る必要ねぇだろ?」
「私がいたらアンタ、約束破ってでも此処にいるでしょ。」
寝室でビジネススーツに着替えながら伊織に言えば、否定もできずに目を逸らす目の前のコイツにため息が出てしまう。