好きだけじゃ足りない
正しい道筋
マスターの言う通り、駅の目の前には"CRYSTAL"と言うカフェバーが建っている。
マスターのお店よりも数倍大きなお店。
それでも大きいだけで温かみなんて一つもないお店。
足を踏み出し、お店のドアを手を掛ける。本当にこのお店に私が会いたい人がいるかなんて確証はないけど…何となく、いるような気がした。
ドアベルも何も付いていないドアはただ無機質な音を立てて開き、客を招き入れてくれる。
お店が出来てからそんなに時間が建っていないのか、内装は外装同様に小綺麗で天井から吊されたムードランプが豪華さを演出している。
店内をぐるりと見渡し、一番奥の外からは見えない位置にあるボックス席で視線が止まった。
――…いた…。
そこからは躊躇いはなかった。
足をただ前に出して一歩一歩そこに近付く。
20メートル、10メートル、5メートル…、ピタリと足を止めたところでお目当ての人物と目が合い、ギュッと唇を噛み締めた。
「あれ?偶然だね……それとも、俺に会いに来た?」
にこやかな笑顔の裏に潜む真意を嫌でも汲み取ってしまい、私は何も言わずにボックス席に向かってまた歩きだす。