好きだけじゃ足りない
「なに?怖ーい顔して。」
「…っ…お話が…あるんです」
裏返りそうになる声に力を込めて、目の前の人物…如月彬をまっすぐに見た。
「ふーん………あ、みんなちょっと席外してね?」
侍らせていた派手な服を着た三人の女にヒラヒラと手を振りながらグラスに口を付ける専務は一般的にはいい男なのかもしれない。
私にとってはただの悪魔でしかないけれど。
専務とあの契約を交わしてから、週に二度は必ず呼び出された。
呼び出される、則ち…抱かれると言う方程式の中で七ヶ月を私は過ごしてきたんだ。
「話し、ってなーに?」
にこやかな笑顔のまま私を見ながら自分の隣をポンポン叩く専務を無視して、テーブルを挟んだふわっとしたチェアに座る。
「――…契約破棄をお願いしにきました。」
「契約破棄?なに?いっちゃんと別れた?」
にこやかではない。にやりと裏のある笑顔で至極楽しそうな専務をまっすぐ見たまま膝の上に置いた掌をにぎりしめた。
「はい。だけど…私は伊織を諦めるつもりはありません。」
「……何だそれ…矛盾してるよ?メグちゃん。」
「わかっています。専務が…私をどうしたいかなんて知りません。
専務が望む事を私はなんでもします。ただ、それを最後にしてください。」
契約破棄をしてもらわなければ、伊織には向き合う事ができない。
だから、そのためならなんだってしてやるんだ。
今を、未来を、大切にするためならなんだってする。