好きだけじゃ足りない
「ふーん…何でもするんだ?」
「はい。」
迷いはなかった。
ただ、専務の何かを含んだような笑いが恐怖を呼び起こして、膝が震えてしまう。
「いいよ。」
「…は?」
「だから、俺が今から言う事ができるなら契約は破棄してあげるって言ったの。」
あまりにもあっさりとした言い方に眉を寄せた私を指差したまま笑う専務に余計に眉を寄せてしまう。
「たださー……メグちゃんには無理だと思うよ?」
口許に笑みを貼り付けたまま、無機質な声を発し、手に持ったままだったグラスにまた口を付ける。
「できるかできないかは私が判断します。」
昔、伊織に何度も怒られた事がある。
相手の言葉に素直に返しすぎだ
そう伊織に何度も怒られた。
その時は聞く耳を持たなかったけど、それが今裏目に出るなんて思いもしなかった。
「そう?じゃあ………
円香さんに自分からカミングアウトする。
どう?君にできる?」
挑発的な言葉に、声が出てこなかった。まさかそれが条件だなんて思いもしなかった。
円香さんに知られないように伊織を裏切ってまでこの男と契約したのに、自ら伊織の奥さんに全てを話せと平然と言われる。
今までの全てを平然とさらけ出そうとするこの男に殴り掛かりたい位に腹が立った。