好きだけじゃ足りない

鳴りつづける電話



街の中には人がたくさんいる。

買い物をする人、お店の中で忙しなく走り回る人、スーツを着て歩く人。

そんな中の一人でしかない私。



――♪〜♪―



駅に向かう途中、鞄に入った携帯電話が着信をうるさく知らせていた。

流行りの着うた、いつもなら楽しく聴けるはずの歌も今の私にはただ鬱陶しいものでしかない。



「―――…はい。」

『俺…わかる?』


どうして…?
どうして彼がこの番号を知ってる?

教えてなんかいない。
彼の会社の人は私の携帯電話の番号なんて知らないはずなのに。



「……な、んで?」

『メグと話したいんだ。仕事が終わってから会いたい。』


違う、私が聞きたいのはそんな事じゃない。



「――…何で…番号知ってるの?」

『………あー、まぁ色々コネ使って。それより、会えない?』


コネって何…、それより今更会いたいなんて言わないでよ。

さっきだって話す事なんかないって言ったじゃない。

今更……何がしたいのよ。



「……話す事ないって言ったでしょ?」

『俺はある。』

「私はない!会う気なんてないし…もう電話しないで。」


伊織の言葉を待たずに通話終了のボタンを何度も押した。

そうしなければ、堪えられそうになんかなかった。


電話を切ってすぐに伊織からまた着信が入っても私はでなかった。

鳴っては切れて、切れては鳴る。

電話にはでなかった。


それでも、電源を切れないのはたぶん私の気持ちだけは三年間一度も切れなかったから。



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