好きだけじゃ足りない
閉ざされた口
専務との約束の期限まであと13日。
昨日の事なのにもう遥か昔のような気さえする。
昨日の夜、自宅に戻ってすぐに一緒に暮らす母はまた転勤になったと慌ただしく出てしまった。
いつもの事だし、もう気にするような年でもない。
それに…今は一人になれて正直ホッとしている。
昨日の夜から一睡もできないまま朝になってしまい、何もする気にならないまま昼を過ぎた。
――ピンポーン…
リビングでボーッとしていた時、来客を知らせるインターホンが鳴り響いても動く気にすらなれないまま、無視を決め込むようにソファーから動かなかった。
「――…っなんなの!」
無視をしてもうるさく鳴り続けるインターホンにイラッとしながら眉を寄せて玄関に向かった。
「勧誘ならお断りです……っ!」
「食事の勧誘も?」
「な…んで…?」
居るはずがない。
だって…昨日私は確かにコイツに別れを告げたはずだ。
「伊織…っ」
「入っても良いか?」
何事もなかったかのように玄関に立つコイツに私の方が戸惑ってしまう。
「美奈さんは?」
「………転勤…昨日出てった。」
何を馬鹿正直に答えてるんだ、自分…。
そんな馬鹿正直にいえばコイツは当たり前のように入り込むのに。
それがわかっていて馬鹿正直に話したのは、思考とは真逆に伊織と話しがしたいと思う自分がいるからかもしれない。