好きだけじゃ足りない
泣いてぐちゃぐちゃな顔を見られたくなくて、顔を上げないでいれば体を圧迫する感覚に息が詰まってしまった。
「顔見られたくないならこのまま聞いてろ。」
胸板に押し付けられて、涙は引っ込みはしたけど顔は上げられずにそのまま抱きしめられた状態で耳に馴染む声に耳を傾けた。
「メグが何かを隠してんのなんか前から知ってんだよ。」
「――…ちがっ」
「良いから聞けって。」
泣いてぐちゃぐちゃだとか、そんなの気にもできない言葉に顔を上げたら無理矢理胸板に顔を押し付けられて仕方なくそのまままた話しを聞いた。
「お前が一人で泣いてたのも知ってる。メグが言いたくないならって聞かないで知らない振りだってしてきたんだ。
まさかそれが裏目にでるなんて思っても見なかったがな…」
苦笑いしてるのか…ちょっとだけ沈んだ伊織の言葉に今までの自分を呪いたくなった。
苦しめたくないと思って黙っていた事が伊織を余計に苦しめていたなんて微塵も思わなかった。
「メグが…俺と本当に別れたいならそれを止める権利なんて俺にはねぇよ。
でもな、俺はどうあったってお前を離すなんてできねぇんだ。」
前にも聞いた事があるような響きに引っ込んでいたはずの涙がまた頬を伝い落ちた。
腰に回った腕に力が込められて、肩に少し重みを感じる。
ちらりと伊織を見た時、伊織は私の肩に額をくっつけて泣きそうな顔をしていた。