好きだけじゃ足りない
「自分でもわかんなくなるくらい俺はお前を愛してんだよ…っ」
「い…おり…っ、ごめん…ごめんね…」
見上げた伊織の表情は苦しそうで、ただ謝る事しかできなかった。
なんて浅はかな事をしたんだろう。
マスターに言われた通り、何かを求めて一緒にいたわけじゃないのに。
ただ一緒にいたくて、少しでもそばにいたくてこの関係を望んだはずなのに。
「聞かせろよ…メグの本当の気持ち。嘘も遠慮もいらねぇから、聞かせてくれ。」
体を少しだけ離して、至近距離で見つめられ息が詰まりながら小さく息を吐いた。
「――…一つ聞きたいの。」
「ん?」
「円香さんの……、奥さんの前で私に好きって言える?」
本当に言ってほしいわけじゃない。ただ、確かめたかった。
伊織に比べたら私はまだまだ子供で不安になる事だってたくさんある。だから、少しでも伊織の気持ちを知りたかった。
「言える。
メグが望むなら…何回だって何十回だって言ってやる。」
まっすぐ、濁りもない瞳で言われた言葉に瞼の裏が熱くなった。
その言葉だけで十分、契約破棄のための条件を乗り切れる気がした。
伊織の腰に抱き着いて、声を殺してただ涙を流した。