好きだけじゃ足りない
約束は約束だと今朝印刷所についてすぐ駄目モトで所長に休みがほしいと言えば有り得ない位にあっさりと貰ってしまった一週間の休暇。
嬉しいやら悲しいやら…物凄く複雑なまま今現在に至る…。
「所長、来週末までに必要な書類は一番上の棚にありますから」
「ありがとう。それが終わったならもう上がりなさい。準備だってあるだろう?」
にこやかな所長に気付かれないため息を吐いて、小さく頭を下げる。
――…あっさりしすぎて余計に不安なんですけど…。
しっかりしてるようで抜けている所長に一抹の不安は拭えないものの…沖縄行きの準備があるのは事実で。
不安を抱えながらもバッグに携帯やら財布やらを突っ込んで印刷所を出た。
「お疲れ様でした。」
「お疲れ様〜、お土産よろしくね!高波さん。」
「あ…ははは………はぁ…」
廊下ですれ違う社員にまでお土産を期待されて、ちょっと泣きそうになる。
お金、大丈夫かな…自分。
沖縄行きが不安とか、会社を休むのが不安とかよりもお土産代に多少泣きを見る事になりそうだ。
広くはない、むしろ狭い印刷所を出てオレンジ色の夕日に目を細め一つ深呼吸をする。
「…………本当にちゃんと仕事してるのか…アイツは…。」
夕日から目を逸らし、正面を見れば見覚えがありすぎる程にあるモスグリーンのアウディに今度ばかりは盛大なため息を吐いてしまった。