好きだけじゃ足りない
カツカツと鳴るヒールを気にも留めずに車に近付けば爽やかな笑顔を浮かべるこの男。
「……なんでいるの。」
「迎えに来てやったんだろ。準備手伝ってやるよ。」
「邪魔する、の間違いでしょ?」
右側の助手席のドアを開けて、爽やかな笑顔の伊織にまたため息を吐いて、開けられたドアから車内に滑り込むように乗り込んだ。
「メグの事だから終わってないだろ?準備。」
「一ヶ月も二ヶ月も行くわけじゃないんだから別に良いじゃん。
服とかだけだし。」
「まぁな…でもどうせ行くならいつもと違う服用意しろよ。」
運転席に座り、私より沖縄行きを楽しみにしてるコイツはたぶん誰が見ても楽しそうに見える。
「あのね…一会社員はアンタみたいに金なんてないから。」
「あ?俺がお前に金なんか使わすかよ。」
軽快に進む車の中でこれまた軽快に言う伊織に頭を抱えたくなった。
もう何年も前になるけど、私の誕生日プレゼントを買いに行こうと言う伊織に連れられてショッピングをした事があった。
その時、まだハイスクールに通っていた私はお金なんてあるはずもなく…伊織にいろんな物を買い与えられたんだけど、その時のショッピングの仕方が有り得ない事だった。
それを思い出して、ため息が出ない人がいるならぜひともお目にかかりたい。