好きだけじゃ足りない
「あのね……私は服なんかいらないから。」
「お前…ほんと物欲ねぇ奴だな。」
「アンタのお金の使い方を知ってるから余計に嫌なの!」
印刷所から道筋に走ればすぐにショッピングモールにたどり着いてしまう。
最近できたショッピングモールは小物から家具、ブランドまで何だって揃うようなかなり大型のショッピングモール。
服はいらないと言う私を華麗に無視したままショッピングモールの駐車場に車を止める伊織。
――…勘弁してよ…。
「ほら、降りろ。」
「やだ。ほんとに私何もいらないから!」
「降りないなら全部買い占めるか?」
普通ならできっこないような事を言う伊織に思わず青ざめてしまう。
買い占める、それは昔伊織がほんとにやった事だ。
ドアマンがいるような高級ブランド店に連れて行かれて、値段をみて尻込みする私を無視しながらほんとに片っ端から買いやがったのがコイツ。
ここで降りなきゃほんとにやるであろう伊織に慌てて車を降りたのは言うまでもない事。
「まずは服だよな…あとは靴に小物…何から見る?」
「……好きにしていいよ…。」
私の物を買うショッピングのはずが私より楽しそうな伊織に何かを言う気力は私には残されていなかった。