天使の足跡
「そっちはどうしてこんな時間までいるんですか?」

「バイトだよ、バイト」

「なら、自分と一緒ですね」

「一緒じゃないだろ、一緒にするな。大体、なんのバイトだよ?」


僕がそう言うと、彼女は首を傾げた。


「どうして聞くの?」

「だって──! いや、別に……」


僕の口から、心とは裏腹な声が出る。


(だったら路地で受け取っていた封筒は? 本当は、何か悪いことでもしているんじゃ……?)


「バイト、ホントはもう辞めたいんですけどね」

「だったら辞めれば?」

「でも、稼がなくちゃ」

「あ……そ」


その金の行先はきっと無駄な物に費やされていくんだろうなと、勝手な想像ばかりが膨らむ。


「雨……止まないかな」


すっかり気落ちして呟いた。


「たぶん、止まないと思いますよ。このまま家へ帰った方が良いかも」


納得して、僕も立ち上がった。


こうして並ぶと僕と同じくらいの身長か、もしくは彼女の方が僅差で──本当に僅差で大きかったかもしれない。

低い背丈にコンプレックスを抱いているから、認めたくなかったけれど。


「じゃあ、走って帰る。君ははどうする?」

「もう少しここにいます」

「今、止まないって言ったくせに」

「そうだけど……帰ってもすることないし」


そっけない答えに、少しだけ顔をしかめた。


(まさか『人生どうでもいい』なんて思ってるんじゃないだろうな……)


「それでも帰らなきゃ。風邪引くよ」

「……そうですね」

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