天使の足跡
「実際どうなんだ? なァ?」
癒威は口を開いた。
「みんなは、そういう目で見てたの?」
笑おうとするけれど、顔が強張る。
「残念だけど、男だよ。体育の時とか、いつも普通に着替えてるだろ? 八杉くんもそれは知ってると思うけど? ……ああ、そっか。まともに授業受けてないもんね」
言い切ってしまった後で、マズイと思った。
思えば、八杉たちに楯突いたのは初めてだったかもしれない。
殊更、八杉の逆鱗に触れてしまったことだろう。
「フン、優等生ぶっちゃって。お前見てると、腹立つんだよ!」
八杉たちは真面目な癒威のことがただ気に食わないだけだ。
だから、どこからか聞こえてきた噂につけて嫌みを言っているのだ──それは分かっている。
分かっているけど──
(怖い……)
「他に、まだ言いたいことあんのか?」
小学生や親子のケンカと訳が違う。
相手は大柄の八杉。
逃げようとしても、一筋縄にはいかないはずだ。
「お前ら、何してんの?」
階段の下から、他のクラスの男子生徒が彼らを見上げた。
八杉たちの視線もそっちに向く。
その隙を突いた。
ノートと出席簿を投げつけて、間をすり抜ける。
「クソッ!」
通路に響く八杉の声。