天使の足跡



 * * * * * *





拓也のメールの文章が、頭に焼きついて離れなかった。



『太田は、
 女子でも男子でも
 ないんだ』




3階から4階へ──。

4階の階段をさらに駆け上がった癒威は、屋上へのドアを押し開けた。




『打ち明けるの、
 すごく勇気が要ったと思う』




眩しい夏の日差しと青空が、癒威を包み込む。


後から追いついてきた八杉は、屋上の隅まで癒威を追いやり、腕を掴んで無理やりこちらを向かせた。




『そういう風に
 悩んでいる人もいるって、
 皆が知ってたなら
 楽だろうけど──』




抵抗しながら顔を上げる。
顔にかかった髪先が、自らの息で揺れ動く。




『可哀そう、とか、
 思っちゃいけないんだ。
 ちゃんと、理解したいと
 僕も思うけど
 そのためには
 どうしたらいいか
 まだ分からなくて』




髪の隙間から見える憎しみ双眸は、まるで八杉に噛みつくかのように鋭い。


おい、と他の二人を顎でしゃくると、田口が癒威を羽交い絞めにした。


「睨むなよ。つーか正直、お前見てるとムカつくんだよな。偉っそーにしてさぁ」


罵りと同時に、顔を殴打される。

意志とは関係なく、正面を向いていた顔が反らされて、口内に血の味が満ちた。


痛みを十分に意識する暇もなく、腹部を直撃した金井の足。

急な衝撃のせいで、激しく咳きこんだ。
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