天使の足跡
7
先刻の噂は、夕方の掃除中にまで及んだ。
「何で? 何で太田が八杉に追われるんだ?」
「あんなの初めて見た!」
「意味わかんねー」
「何か、噂だと八杉が太田を一方的に嫌ってて、嫌がらせみたいなことしたらしいよ」
「つーか、太田もブッ飛ばせばよかったのに」
「そんなことしたらただじゃ済まないって」
「だけどさぁー」
さっきから音楽のように延々と流れている会話。
癒威はあえて、聞こえないフリをして黒板拭きに集中していた。
きっと皆も、自分の事を女々しいとか、情けないとか思っているんだろう。
「太田くん……」
振り返ると、同じ掃除区域の女子生徒が立っていた。
「怪我、大丈夫?」
その隣にまた一人、
「八杉なんて、気にすることない。うちら、八杉が悪いって分かってるし」
それに続けて男子生徒も言葉を掛ける。
「あいつ、絶対自分が中心だと思ってるぜ」
「中身小さいくせに、態度と体だけデカイよな」
掃除用具を持ったまま、彼らが微笑みかけてくれる。