天使の足跡






先刻の噂は、夕方の掃除中にまで及んだ。


「何で? 何で太田が八杉に追われるんだ?」

「あんなの初めて見た!」

「意味わかんねー」

「何か、噂だと八杉が太田を一方的に嫌ってて、嫌がらせみたいなことしたらしいよ」

「つーか、太田もブッ飛ばせばよかったのに」

「そんなことしたらただじゃ済まないって」

「だけどさぁー」



さっきから音楽のように延々と流れている会話。

癒威はあえて、聞こえないフリをして黒板拭きに集中していた。

きっと皆も、自分の事を女々しいとか、情けないとか思っているんだろう。


「太田くん……」


振り返ると、同じ掃除区域の女子生徒が立っていた。


「怪我、大丈夫?」


その隣にまた一人、


「八杉なんて、気にすることない。うちら、八杉が悪いって分かってるし」


それに続けて男子生徒も言葉を掛ける。


「あいつ、絶対自分が中心だと思ってるぜ」

「中身小さいくせに、態度と体だけデカイよな」


掃除用具を持ったまま、彼らが微笑みかけてくれる。
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