天使の足跡

「ホラホラ、そうやってすぐグズるから、いつまでも太田のポジション奪い返せないんだよ。いいのか? せっかく昼までおごって引き止めたのに。三谷らしくない」


三谷は顔を上げ、丹葉を見た。



(俺らしいって、何だ?)



「今、三谷はどうしたいんだ?」



(今どうしたいか? ──そうだ)



三谷はガタン、とベンチから立ち上がった。




(太田に、謝りたい……太田に、バスケ部でいてほしい……!)



「三谷、行こう」






 * * * * * *







「──太田!」


その声は、職員室付近の廊下に余すところなく響き渡った。


部活で鍛えられているはずなのに、癒威に追い付いた三谷と丹葉の息は上がっていた。

動揺しているせいかもしれない。

太田の5、6メートルに背後に見える職員室を見てから、もう一度癒威を見た。

その手にはまだ、あの紙が握られている。

間に合った……と安堵のため息をついた。


緊張で跳ね上がっていた息を整えて、三谷は低く言う。


「それ、退部届だろ」

「うん、そう」


何の表情も変えず、あっさりと首を振られて、三谷は眉を曇らせた。
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