天使の足跡
『癒威、どういうつもりだ』
この声を聞くのは、アパートを抜け出してから久しい。
氷のような父親の声に、携帯電話を握り締める手に力がこもる。
相手がどんな顔で怒っているのか見えないから、床の一点を見つめ、冷静に聞いていた。
きっと、眉に皺を寄せて、気難しい顔をしているのだろうと想像はついていたが。
『学校から連絡があったぞ。クラスで停学処分になった生徒がいるらしいな。お前も関係してるのか?』
「先生がそう言ったの?」
『喧嘩したんだろう?』
「喧嘩だなんて、大袈裟……」
『何があったんだ』
「別に何も」
その後しばらく返事がなかった。
もしかして、もう途切れているのではないかを疑い始めた頃、霧が流れてくるみたいな、掠れた声が発生する。
『お前の特徴のことが問題になったのか』
「それは……っ、違うよ……」
とても『ハイそうです』とはいかない。
確かに父の言うことは当たっていた……けれども、実際にバレたわけじゃないし、クラスのみんなも味方でいてくれたし。
それが心強く思えたから、そんなことで悩むのはやめようと決めたのだ。