天使の足跡
それに……
初めてカミングアウトした友人──槍沢拓也と過ごして、少し考え方が変わった。
自分の隠している特徴も、彼といると『個性』とさえ思え、何も気にせずにいられるようになったのだ。
癒威は深呼吸して、ゆっくりと口を開いた。
「ごめんなさい、兄さんみたいになれなくて」
『何だと……?』
「父さんの言葉を素直に聞かなかったり、家に帰らなかったりしたのも、父さんに殴られるのが嫌だったからだよ。
でも、それは将来のためなんだって、知ってた。やたらにスポーツさせられたのも、兄さん以上に殴られたのも」
話せば話すほど、込み上げる想いを堪えるのが辛くなる。
「それでも、1度も顔を殴らなかったのは、いつか僕が『女になりたい』って言った時、顔に傷を残さないためなんでしょ?
母さんが作法とか料理とか教えたがったのも、その時困らないように……そうだよね?」
『勝手に想像すればいい』
父の仏頂面が目に浮かぶ。
癒威は皮肉を言い返さずに微笑んだ。
「ずっと、この体で生まれてきたことを恨んでた。嫌だって思ったし、普通がいいって思った。
──でも今になってやっと解ったんだ。どっちかなんて選べない。
だから、このままの自分と、ずっと付き合っていく」