天使の足跡
2
癒威が部活を辞めようとした週の土曜日。
枕元の携帯電話の震えと共に目覚めた。
マナーの欠片もないバイブレーションの音。
ずっと訴え続けている携帯電話を、枕に顔を押し付けたまま掴み、画面に触れる。
その途端に震えが止まり、部屋に静寂と眠気が舞い戻る。
意識が朦朧としていながら数秒、枕元から突然に声が聞こえた。
『──し……もしもーし、あれ? 聞こえてる?』
一瞬にして眠気が覚めた。
メールだと思い込んで適当に画面をタッチしたが、電話だったらしいのだ。
「え、あっ、槍沢くん!?」
『もしかして、まだ寝てた?』
「そ、そんなことないけど……」
嘘だあ! と笑われ、決まり悪さに苦笑した。
『出てこられる? すぐにじゃなくていいから。見せたいものがあるんだ』
「見せたいもの? ……うん、行くよ。少し時間があれば」
拓也は、いつも歌を披露する時に行く駅前に癒威を呼び出した。
理由や詳しい時間までは知らされないまま。