天使の足跡







癒威が部活を辞めようとした週の土曜日。

枕元の携帯電話の震えと共に目覚めた。

マナーの欠片もないバイブレーションの音。

ずっと訴え続けている携帯電話を、枕に顔を押し付けたまま掴み、画面に触れる。

その途端に震えが止まり、部屋に静寂と眠気が舞い戻る。


意識が朦朧としていながら数秒、枕元から突然に声が聞こえた。



『──し……もしもーし、あれ? 聞こえてる?』


一瞬にして眠気が覚めた。


メールだと思い込んで適当に画面をタッチしたが、電話だったらしいのだ。


「え、あっ、槍沢くん!?」

『もしかして、まだ寝てた?』

「そ、そんなことないけど……」


嘘だあ! と笑われ、決まり悪さに苦笑した。


『出てこられる? すぐにじゃなくていいから。見せたいものがあるんだ』

「見せたいもの? ……うん、行くよ。少し時間があれば」


拓也は、いつも歌を披露する時に行く駅前に癒威を呼び出した。

理由や詳しい時間までは知らされないまま。
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