天使の足跡
癒威は、すぐには近寄らず少し遠くから、人が交差する隙間越しに見つめていた。
髪を風になびかせて、肩からギターを下げ──。
楽しそうに笑顔で歌う拓也の周りには、4人の客が耳を傾けていた。
その曲は終りを迎え、小さな拍手と声がぱらぱらと飛ぶ。
会釈をした拓也。
そして深呼吸をしてギターを構え直すと、そっと次の弦を弾き始めた。
街の騒音に食い尽されてしまいそうなほど、静かで優しい音色。
その前奏を耳にした瞬間、はっと息を飲む。
(──この曲──……)
──間違いない。
以前「聴きたい」と言った、あの曲だった。
その歌詞の一つ一つを、漏らさずに聞こうと試みた。
『──半端な優しさなんて
手の温もりで
すぐに冷めてしまう
それより歌をあげたい
天使のように自由に
はばたける歌の翼』
こんな暑苦しい街の中、たいてい見向きもせず過ぎて行くのに、歌を聞いた一人が足を止めた。
また一人、また一人。
今、7人が立ち止まってっている。
『どう思われても構わない
君が笑顔になれるなら』