天使の足跡






「癒威!」


改札口で、若い男女が声をかけてきた。


「癒威! お前、大丈夫なのか?」


男性の方は、僕は覚えていた。

あの日、路地裏で初めて見かけた。

太田の兄だ。


彼よりも少し年上に見える女性の方は、たぶん姉だろう。


「話、父さんから聞いたよ」


太田は眉間に皺を寄せて、何でここにいるの、と憎まれ口を叩く。


「父さん、結構心配してたんだぞ。お前本当に──」

「余計なお世話だよ」


二人の間をすり抜けながらそう言い、待ちなさい癒威、と兄姉が叫びかけたが、太田は改札を通って行ってしまう。


「まったく……」


ふうと溜め息をついて笑う姉の顔が、太田とそっくりだ。
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