天使の足跡
グラス1杯分の牛乳を飲み干してから、部屋を見渡した。
大切なギターがひっそりと片隅に置かれていて、室内は高校2年の生活の残滓と化していた。
ギターを犠牲にしたあの日、ネックの部分に亀裂が生じて、すぐに修理に出した。
何とか復帰したまではいいが、つい2日前、弦を切らしてしまったのだ。
すぐに張り替えてやればよかったのだけど、あの日以来、気持ちが燃え尽きたようになってしまって、少しギターを休憩した。
誰かが『ギターは女性を模ったものだ』と言っていたから、擬人化した声が聞こえてきそうだなと思う。
きっと、「もっと私を大切にして」……なんて言って泣いているんだろう。
買い替えようなどと考えようものなら、「浮気しないで」とか「捨てないで」と言われそうだ。
6年も愛用していたものだから、僕の家族も同然。
悪いことをしてしまったなと思う。
だから後で弦を張り替えて、思う存分奏でてやろう。
これからはもっと大切にするって、誓うつもりだ。