天使の足跡






「ありがとうございました」



ギターを収納したケースを肩に掛けて楽器屋を出た。



ブーッ、ブーッ、ブーッ……



ジーンズのポケットの中、マナーモードの携帯電話がやかましく震えている。

このうるさいバイブを止めてくれと僕を呼んでいるのだ。


駅に向かって歩きながらディスプレイを覗き、それから耳にあてる。


誰からなのか分かっていた。

僕はしばらく、無言のままだ。


ゴーゴーという音が耳に入ってくる。


相手は電車の中みたいだ。


その次に聞こえてきたのは澄んだ声。



『槍沢くん』



あの、と続けて、しかし数秒間が空く。



『……太田、です』
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