天使の足跡
2
「ありがとうございました」
ギターを収納したケースを肩に掛けて楽器屋を出た。
ブーッ、ブーッ、ブーッ……
ジーンズのポケットの中、マナーモードの携帯電話がやかましく震えている。
このうるさいバイブを止めてくれと僕を呼んでいるのだ。
駅に向かって歩きながらディスプレイを覗き、それから耳にあてる。
誰からなのか分かっていた。
僕はしばらく、無言のままだ。
ゴーゴーという音が耳に入ってくる。
相手は電車の中みたいだ。
その次に聞こえてきたのは澄んだ声。
『槍沢くん』
あの、と続けて、しかし数秒間が空く。
『……太田、です』